ハノイで恋する5秒前(1) ～プロローグ・とまどい～

仕事終わりのおっさん達でごった返すハノイの日本食レストランに全く似つかわしくない美しい女性が現れた。

背筋がピンっと伸びて姿勢がよく、背が高くて歩く姿まで美しい。

彼女が歩くたびに、黒髪ロングが左右にふわっふわっとなびいている。

自分とは、全く違う世界に住む子だな・・・。

それがあの子の第一印象だった。

その日は、ハノイに住む日本人の飲み会で、あの子は同じ会社の上司に連れられてやってきた。

「えっ！？君、新卒なの！？じゃあ・・・22歳！？」

そんな会話が聞こえてきた。

僕よりも5歳も年下じゃないか・・・それで、あの大人びた雰囲気！？

見た目もパッとせず未だに学生と間違われ、会社のベトナム人女子達からは「子ども！子ども！」とからかわれている僕とは大違い。

やっぱり、違う世界の子だな。

「君、英語も話せるのかー。」

この見た目で、英語も話せるのかよ。

僕と言ったら、ハノイに来てからもう数年経つというのに、全然ベトナム語も英語も話せない。ベトナム人達とは、知っている単語を駆使してなんとか会話している感じだ。

神様って不公平だよな…。

ちょっとふてくされながらビールを飲む。

「おい、河内！

お前、年近いんだから、この子の面倒見てやれよ！」

は！？何言ってんだあのおっさん！？

おっさん連中よりは、確かに年は近いけど・・・とはいえ、5歳も年下の子と・・・それもあんな世界が違いそうな子と何話すんだよ！？

聞こえないふりして、そのままビールをぐびぐび飲む。

ガタッ！

誰かが椅子を引く音がして横を向くとあの子が隣の席に座っていた。

勘弁してくれよー。

・・・と思いつつ、内心ちょっと嬉しい僕がいる。

我ながら男って単純だ。

あのー、河内さん？

ヤバい声かけてきた！！！！

・・・はい。

河内さんって、お肉とビールが美味しいお店ご存知ですか？

・・・肉！？

全く想像もしていなかった事を言いだすものだから、ビックリして大きい声を出してしまった。

あっ、突然こんな事聞くの変ですよね！すみません！！

そう言いながら笑い出すあの子。

先程までの大人びた表情が一変して22歳らしいあどけない表情で笑う姿に驚いた。

こんな表情で笑うのかよ・・・。

屈託のない笑顔で笑うあの子を見て、不覚にも住む世界が違うと思っていたあの子が急に気になりだしてしまった・・・。

（続く）

次回予告

ハノイで恋する5秒前（２）～ハノイ最大級のアメリカンスポーツバー『O’Learys』編～