本日は、ベトナム・ダラットで青年海外協力隊の観光隊員として2年間活動していた「さとこ」さんのインタビューをお届けいたします。
協力隊員になることを決めた理由や、日本人にはまだあまり馴染みのないダラットでどんな活動をしているのかなど色々とお話を伺ってきました!
さとこさんインタビュー
大学は農学部を卒業しましたが、仕事は農業関係ではなく編集関係に就きました。初めての勤め先は東京の編集プロダクション。園芸関係の書籍を作るお仕事でした。
そこでの契約が終わった後も編集のお仕事がしたかったので、長崎に帰ってタウン情報誌の出版会社に就職しました。
その後も建設業関連や医療関連などへ数回転職しましたが、いずれも文章を書いたり、編集したりすることが業務内容でした。
そこから、どのようなキッカケで協力隊員になったのですか?
しかし、就職するとなかなかそんな機会を持てないでしょう? 20代は特に仕事で学ぶことが多くて、辞めることなど考えませんでしたし。
それが40歳手前になって、両親から意外なことを言われたんです。
「自分の好きなように生きていいよ。海外に出てみたら」と。
確かに両親は健康ですし、その頃になると私も仕事にマンネリ感を持ち始めていました。ちょっと違うトライをしてみようと思うようになったんです。
また、言い方が良くないかもしれませんが、日本に未来を見出せなくなったというのがあります。今、日本は消費がどんどん減っているし、人材不足で外国から労働力を得ている状況ですよね。
このまま衰退傾向の日本を見ているのは怖かったし、何より面白くなかった。
一旦、日本を離れて、今まさに発展中の国に行き、外から日本を見てみたら、これまでとは違う視点を持てるかもしれないと思いました。
でも、協力隊以外の道もあったはずですよね。
「どうしたものか」と思っていた時、たまたま青年海外協力隊のポスターを見たんです。ためしに説明会に行ってみたのがキッカケです。
説明会に参加する前は私の経験が活かせる活動があるかどうか知りませんでした。しかし、タウン情報誌の会社に勤めていた経験が「観光分野」で活かせるとアドバイスを受けたんです。
タウン情報誌では長崎県のPRの記事がほとんどだったので、確かに観光分野ですよね。
それから試験を受けたのが38歳、訓練所に入ったのが39歳、そしてベトナムに来てから40歳を迎えました。
青年海外協力隊の年齢制限は40歳なので、ほぼ滑り込みですね。
ところで、協力隊員になるまでにずいぶん時間がかかるんですね。
それから合否と一緒に配属先と隊次も通知されます。私の受験当時、青年海外協力隊は1年に4回送り出されていました。
派遣される時期によって隊次と表現されます。私は10月に派遣される2次隊でした。
(青年海外協力隊の派遣や制度については、2019年から大きく変更されているので、詳細はJICA海外協力隊ホームページをご覧ください)
健康管理、危険予測、異文化コミュニケーションについてなど本当に様々なテーマです。
訓練の形式も講義やワークショップ、ゲームなど工夫されていて、どれも興味深かったですよ。
青年海外協力隊の訓練所は2箇所あって、ベトナムに派遣される訓練生は福島県二本松市の訓練所で受けます。2カ月間泊まり込みです。
でも、若い人たちはそれさえも楽しそうでしたよ。ちなみに、訓練費用(講座受講費、宿泊費、食費、光熱費など)はJICAが負担してくれました。
ダラットについて
実はニンビンに応募していて、ダラットは第2希望だったんです。だからダラット配属って通知が来た時にはガッカリしました(笑)。
ただ、配属されてしばらくたってから「これまでの経験を活かせる場所だ」と思うようになりました。というのも、ダラットは“街歩き”を楽しめる街だからです。
私の出身の長崎市がまさに“街歩き”の街なんですね。ご存知の方もおられるかもしれませんが、長崎市には街歩きイベント「長崎さるく」という行政の観光事業があります。
「町中が博物館!」というコンセプトで、何気ない小道に潜んでいる歴史の遺物を見つけながら観光名所も回るという観光案内サービスです。
これが2006年の開始当初から今でも好評なんです。参加者は県内外からいらっしゃいますし、リピーターも多いんですよ。
ダラットも同じような魅力があると感じています。街のあちこちに昔ながらのヴィラが残っていたり、フランス人が都市設計した街並みを感じることができたり。
それに“歩いて回れる観光コース”をいくつか作れるくらい、観光地がこぢんまりとまとまっています。さらに、ダラットは気候的にも街歩きに適しています。
年間平均気温が18~26度ですからね。サイゴンやハノイと違って歩くことも気持ちいいでしょう? 街歩きの素質がすごくあるんです。
そんな魅力を紹介していくのが私の役割かもしれないと思いました。
具体的にはどのような活動をされているんですか。
一つ目は観光地の魅力の洗い出しです。ベトナム人の方がPRする観光情報と日本人が求める観光情報が違うんです。
日本人の趣味趣向を理解していないと日本人へのPRは難しいんですね。そのため、それぞれの観光地の“日本人が魅力的だと感じる点”を一つひとつ調べ直しています。
もちろん、私はダラットについても、ベトナム文化についても無知なので、正誤性などを確認しながらの作業です。
それをまとめたものを、最終的に日本語のダラット観光ガイドブックとして発行したい*と思っています。
今は日本人観光客が少ないですが、もし日本人が一人で来たとしても安心して回れる一冊にしたいです。
*2019年12月現在、ガイドブックは完成しております。
ですから、人民委員会の職員はもちろん、民間サービス業の人たちも日本人対応ができません。それも日本人観光客が少ない理由なんです。
一方で、ダラット大学には国際学部に日本学科があるんです。そこで日本語を学ぶ学生たちがいますが、彼らは日本人と話す場がなく、学びを実践できずにいます。
この2つの負の要素を補い合うことができないだろうかと考えました。つまり、学生には活躍の場を提供し、観光業には日本語対応ができる人を供給する。双方にウィンウィンの流れを生み出せないかと思ったんです。
ただ、残念ながら1クールだけだと結果ではなく、自分自身への反省点しか出てきませんでした。
日本語の習得度、日本人とのコミュニケーション技術も課題ですが、何より「観光とは何か」を教えることがとても難しかった。
何しろ彼らは日本学科であり、観光についての知識はありません。観光についてゼロから教える必要があったんです。何もかもが手探りのワークショップでした。
当初は2クール目、3クール目を実施して、反省点を改善していきたいと考えていましたが、協力隊の2年間の期限内には難しかったですね。
笑顔の裏で様々なことを乗り越えてきたんですね。
しかし、そのテーマを初めて来た人は発見しづらいと思います。しかも、どのテーマがその方に合うかも分からないでしょう? だから、私がダラットをご案内するときには、一通りご説明した後、一人ひとりの希望を聞いて、その方に合わせたコースをご案内しています。
ただ、正直に言ってしまうと、ダラットには世界遺産があるわけではないし、分かりやすい観光地も少ないんです。人によっては「見所がないね」とおっしゃいます。
だから、そういう“明らかな観光”目的ではなくて、休日をゆっくり過ごす所として来てほしいですね。
気候は涼しくて過ごしやすいですし、景色もきれいだし、物価も安いです(海外の観光客よりベトナム人観光客が多いので物価が安い)。
負担なく、色々なことが楽しめますよ。五つ星、四つ星のホテルでも、他の地域に比べるとずっとお手頃です。
今まで私がご案内してきた多くの方がおっしゃることなんですけど「いい意味でダラッとできる場所」なんだそうです。ジョークではなく(笑)。
だから、これから初めて来られる方には「あなたなりのダラットを探しに来てください。そして思いっきりダラッとして癒されて帰ってください」とお伝えしたいです。
20代前半の方の中には、もしかしたら就業経験が短いことを気にしている人もいるかもしれません。
ですが、経験はあるにこしたことはないとは思うんですが、経験がなくてもコミュニケーション能力を生かして良い人間関係を築くなど、活動での対処法があると思うので。不安がらずに受けてもらっていいんじゃないかと思います。
私の同期隊員には、協力隊の試験に何回も落ちて、ようやく合格したという人もいました。一度や二度の不合格にめげずに受け続けているとヤル気を買ってもらえるんですかね……。
試験官が何を見抜いているのか私には分かりませんが、「落ちたからもうやめる」と諦めるのではなく、何回かトライしても良いのかなっと思います。
ただ、海外への明確な目標がある人は、協力隊で回り道するのではなく、直接目的を達成できる道を探った方がいいかもしれません。
協力隊は、あくまでも配属先組織のニーズがあってこそのボランティアであり、自分の好き勝手にはいきません。現地の人の求めに応じる必要があり、自分が掲げる成果を求めるものではないからです。
さとこさん、今回はお時間をいただきありがとうございました!
以下は、文中にも登場したさとこさんが作成したダラットの日本語ガイドブックです。
2年間かけて制作した素晴らしいガイドブックですので、ダラットにお越しの際には、是非参考にしてみてください。